第16回 身近な闘争

概要

そのビラには、依頼人の顔写真付きで「この男は中国人ホステスに入れ揚げている」と書かれていた。
「根も葉もない中傷ビラが出回っていて……困ってるんです」
「“犯人”に心当たりはないんですか？」
「私は妻一筋の堅物で……何の面白みもない人間ですし……他人に恨まれるようなことはありません」
50代の依頼者は、ある大手企業の役員。週に1、2回、自宅や近所に例の中傷ビラが入った郵便物が送り付けられる。それが1ヶ月以上続いているという。
「私は平の取締役で、社内の派閥争いに巻き込まれることもないはず」
ビラを手掛かりに調査を開始する。この案件にはいくつかの“裏技”を使ったので詳しいことは話せないが、とにかく犯人を割り出すことに成功した。
「ああっ、この人！近所に住んでいる建設会社の社長さんですよ」と依頼人は仰天し、安どの表情を浮かべた。
依頼者と犯人には1つだけ接点がある。2人は地元の名士が集まるボランティア団体の次期会長候補で、近々選挙があるという。
その社長が深夜、ポストに郵便物を投かんしている現場写真を匿名で送り付けたら、嫌がらせはピタッと収まったそうだ。
最後に欲しかったのが名誉。ある程度の地位、ある程度の収入を得た男の悲しいさがということか。